南極猿手帖

だいたい音楽の話(邦:洋=2:8くらい)をしている人です。ライブに月1~3回くらい行ってます。

普通の日常が一番さむしい、ポール・マッカートニー"Another Day"

ポール・マッカートニーのソロで1stシングルとして知られる"Another Day"は、ジャケットデザインの指名手配感のすごさでもよく知られるところですが、最近は「薄そうで奥行きのあるこの歌詞がすごい!」曲として自分の中で知られています。

 

Another Day - Red vinyl

Another Day - Red vinyl

 

 


"Another Day" by Paul McCartney & Wings lyrics (HD)

この曲、なんだか口ずさみたくなるリズミカルな歌詞ですが、冒頭の内容はと言えば

 

 彼女は毎朝、風呂で髪洗って

 タオルを巻いて寝室の椅子へ向かう

 なんでもない1日

 

みたいなしょうもないモーニング・ルーティンの話なんですね。

そのあとも

 

 オフィスで書類仕事

 一休みでコーヒーをもう一杯

 でもまだ眠い

 なんでもない1日

 

とか改めて歌詞にするようなことか?

と言いたくなるような日常描写なわけです。

 

ですがそんな風に思っていると、突然マイナー調な雰囲気に転じて

 So sad, so sad(悲しい とても悲しい)

 Sometimes she feels so sad(時々無性に悲しい気持ちになる)

と続きます。

「今のところ悲しい要素あったか?」と訝しむ。

 

 Alone in apartment she'd dwell(アパートでひとりぼっち)

 Till the man of the dream

 comes to break the spell(夢の中の彼が魔法を時にやってくるまで)

 

うわあ。

 

 

さっきまでの歌詞が、「若干シンデレラ幻想のあるアラサー(?)女子で、たまにアパートでしんなり孤独に浸ってる」主人公に置き換えられますね。

 

普段のルーティンや職場での仕事はそこそこ問題なくこなせるんですが、ある時一人になると、ふと自分の境遇に立ち返って急に悲しさ、つまり「ぴえん」が押し寄せてくる…なんかわかるなあと。

 

そんな感じで主人公の置かれている状況がある程度わかったところで次の一節が出てきますが、ここが個人的にこの曲の最も印象深いところ。

 

 5時の音(チャイム?)が鳴る中、

 手紙をポストに出しに行く

 周りが人々で賑わいだすと

 彼女は思った「生きるのがつらい」と

 

ここでストン、と落ちるのが本当に見事で、糸が切れたような様子をさらっと歌い上げるのがいっそ寒々しい。

 

で、とどめに最後は冒頭と同じ歌詞が出てくるんです。

 

 彼女は毎朝、風呂で髪洗って

 タオルを巻いて寝室の椅子へ向かう

 なんでもない1日

 

ここまでくると「なんでもない1日」の意味が変わってくるなあと。なんか「ソフトな絶望」を感じませんか?

 

普通に生きていける、暮らしていけるから、絶望するほど落ち込んではいないけれど、でもふとしたときに「生きていくのがつらい」と感じる程度には悲しいのに、「なんでもない1日」がこれからもずっと続いていくと。病んでませんよ

 

個人的に、死別や失恋みたいな激情を歌った歌詞よりも、こういう妙に現実味ある歌詞の方が刺さるんですよね。

 

 

さて、ここまで読み込んだところでなんとなくこの感覚どこかで覚えがあるなと思ったんですが、BUMP OF CHICKENの"ギルド"で

 

 悲しいんじゃなくて 疲れただけ

 休みをください 誰に言うつもりだろう

 

とか

 

 気が狂うほどまともな日常

 

とかいうフレーズがあるんですが、ほんのり募ってく負の感情が日常の堆積で膨れ上がって時々決壊して、それが終わったらまた日常が続いてくことを意識したときの、小さい絶望をうまく描いてて、こういう歌詞っていいなと思った話です。

 

ユグドラシル

ユグドラシル

  • アーティスト:BUMP OF CHICKEN
  • 発売日: 2004/08/25
  • メディア: CD
 

 

 

 

あと、こういうの好きな人って多分ピロウズ好きだろうなと思いました。

サンキューリトルバスターズ