南極猿手帖

だいたい音楽の話(邦:洋=2:8くらい)をしている人です。ライブに月1~3回くらい行ってます。

【Billy Joel】僕らはアレンタウンに生きている

ビリー・ジョエルといえば有名なのは70年代の"Honesty" "Just The Way You Are" "My Life" "Piano Man"あたりなんですが、自分の中で最も思い入れが強いのが1982年リリースの「ナイロン・カーテン」に収録されている"Allentown(アレンタウン)"という曲。

 

まず、ナイロン・カーテンはビリー本人が自信作(なんでも自身にとってのSgt.Peppersなのだとか)と言い切るほどのアルバムで、"Allentown" "Pressure" "Goodnight Saigon"などの名曲が収録されています。ベトナム戦争について歌ったGoodnight Saigonをはじめ、政治色の強いアルバムでもあります。

Nylon Curtain

Nylon Curtain

 

 

で、冒頭一曲目に収録されているのがこの"Allentown(アレンタウン)"

アレンタウンはペンシルベニア州に実在する工業都市なのですが、曲中でも随所に工場を思わせるようなカーン、カーンという音が入っています。

ラストベルト(脱工業化が進んでいる地帯)に住むブルーカラーの焦り、怒りを、親世代と現在を対比させながら描いた歌詞が印象的。親父たちは重工業で栄えた時代を生き、教師は勤勉を説く。でも自分たちの世代には工業が廃れ、職安に並ぶ毎日…。

 ・・・というとジョン・レノンの"Working Class Hero"のような曲をイメージしますが、かなり感触は異なることがわかるかと思います。↓

 


Billy Joel - Allentown (W/Lyrics)

 

一見アップテンポのようにも聴こえる曲調の中で衰退する社会に生きる焦燥感やいらだちみたいなものが謳われていて、かなり琴線に触れる内容なのです。

 

一度自分の言葉で訳して見たかったので以下。

 

 <アレンタウン>

 俺たちはアレンタウンに住んでいる

 工場は次々と閉鎖されていく

 みんなベツレヘムで時間を潰し

 職安に列を成し、書類を埋める

 

 親父の世代は世界大戦を戦った

 週末はジャージーショアで過ごし

 USO(米軍慰問団)で俺達の母親に出会った

 ダンスを申し込んで ゆっくり踊ったんだろう

 そうして俺たちはアレンタウンに住んでいる

 

 しかし不安は後の世代に伝わって

 暮らし向きはどんどん悪くなっている (※1)

 

 俺たちはアレンタウンで待ってる

 ペンシルベニアでは見つけられなかったもの

 先生たちは約束したはず

 必死に努力をすれば 折り目正しくふるまえば報われると

 

 そうして卒業証書は壁にかかっているが

 役に立ったことなんて一度もない

 何が本当かは教えてくれなかった

 鉄、石炭、クロム鋼

 俺たちはアレンタウンで待ってる

 

 だけど今や石炭は掘りつくされてしまい

 組合の奴らは逃げ出しやがった

 

 どんな子どもにだってチャンスはあるはずだ(※2)

 少なくとも上の世代と同じくらいのものを得られるくらいには

 でもこの場所に何かが起こった

 人々は星条旗を投げつけていった

 

 俺はアレンタウンで生きてる (※3)

 善人を押さえつけるのは難しいものだ

 でも今日は起き上がる気力もない

 暮らし向きはどんどん悪くなってきているけれど

 今も俺はアレンタウンで生きてる

 

 

(※1)ここの歌詞は But the restlessness was handed down, And it's getting very hard to stayとなっているんですが、このrestlessness(焦燥感、不安)がhand down(手渡しされる)という言い回しが巧みだなぁと思います。

(※2)思ってました

(※3)ここ、さらっと今までweがIになってるんですよねぇ…

 

 

さて、これアメリカのしかも80年代の曲なんですけど、なんでかすごく刺さるものがあるんですよね。もちろん状況は異なるんですが、高度経済成長やバブルを経験してきた親世代と、「失われた20年」以降に生まれた子どもの世代。人口も所得も右肩上がりに増えていった時代と、年寄の比率だけが増え、子どもは減り、職に就けるかも怪しい時代。過疎化が進む地方都市、廃線、廃校、シャッター街。日本と重なる部分があると思いませんか。

 

掘りつくされた「鉄や石炭」も「上の世代と同じくらいのものを得られる機会」も日本の今にダブるところが多々あり、日本という国がアレンタウンになりつつあるなぁ…と思ってしまうそんな曲。