南極猿手帖

だいたい音楽の話(邦:洋=2:8くらい)をしている人です。ライブに月1~3回くらい行ってます。

コンビニ人間感想

文庫化を機に読みました。

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

100ページちょっとなんで中編小説くらい。薄い。

ストーリーはこれと言って何か大事件が起こるようなもんでもなく単調なんですが。 現代にはびこる「モヤッとする空気」を濃縮したようなお話だったと思います。面白かった。

 

「常識」を巡る、特に大きな谷も山もない物語。

 

あらすじ。

主人公は30代後半の女性、恋人は生まれてから一度もおらず、 就職はせずにずっと同じコンビニでアルバイトとして働いている。 この主人公がちょっと変わってて、簡単にいうとものすごい「ずれた」感性を持っている。「生と死」に対する倫理観や人間関係に対する価値観など、なんとなーく生きているうちに身につくはずの「常識」がどうしても内面化できずにいる。 ずれているからまともな人間関係は築けない。もちろん結婚はしていないし、就職もできなかった。

 

そこで出会うのがコンビニ。 コンビニという箱の中ではすべてが機能的に動き、コンビニという組織の一細胞として働く。 もちろん店員もコンビニという機能の一部、コンビニの細胞の一片となる。 これが主人公の気質にこれ以上なくマッチした。 行動原理はマニュアルという指針通りに決めればいいし、人間関係もコンビニ内だけならうまくやれる。 主人公はコンビニ店員である間だけ、「普通」になれる。 ここに「コンビニ人間」が誕生。(タイトル回収・・・!!!)

 

ですが、茶々をいれてくる連中がいるわけです。 「まともに就職もしないで何やってんの?」 「なんでその年でバイトなの?」 「しかもコンビニって・・・(笑)」 「まともな女性なら結婚してる歳でしょ?」 みたいな。うるせえな。

 

こういう「自分の常識を押し付けてくる人」ってのは割と他のお話でもよく見るんですが、この小説で違うのはそういった圧力に対する主人公の反応。面倒だなー、くらいには思っても、それで感情が揺れたりしないというか、そもそも感覚がずれすぎて「あぁ普通はそういうもんなのか、へー」くらいのリアクションなわけです。 主人公は「持病があって就職できないんですよー」みたいに一応は対策を打つのですが、あくまで「私のここはどうやら変らしいからこういう設定にしとくかーめんどくさいし」みたいに無感動なんですよ。 当事者なのになぜか第三者であるかのようにふるまうのが面白い。 主人公は「常識」という世間の共通認識を肌感覚で理解できない。 そのためかえって「常識の方が相対化されてしまう」 これがこの小説のミソなんじゃないかと思います。

 

 

そもそも「常識」は「大勢の人が共通して抱いている幻想」なわけで、 それを共有していない人にとっては何の意味もないわけです。 主人公は「現代日本」に属しているにも関わらず、「常識」という「幻想」をいまいち共有できないため、いっそう「常識の不確かさ」をあぶり出してしまうという構図なのかなーと。 物語に出てくる「嫌な奴」は小説風にデフォルメされてはいますが、現実にも結構似たような人っているなあ・・・と極上のモヤモヤ感を提供してくれます。一生クラウン乗ってろ。

 

 

 

そう、つまり要約すると…主人公がずっと江口のりこさんのイメージだったということです。